Speaker
Description
セッション4・講演4(リモート)
「PANDORAプロジェクト: 軽核の光核反応の系統的理解と実験的アプローチ」
民井淳(大阪大学 核物理研究センター)
講演要旨
光核反応の研究は、核構造の解明や天体物理学的プロセスの理解に重要な役割を果たし、さらにガンマ線を用いた多くの応用にとっても不可欠です。PANDORA(Photo-Absorption of Nuclei and Decay Observation for Reactions in Astrophysics)プロジェクト[1]は、質量数60以下の軽核における光核反応を、実験的および理論的に系統的に理解することを目指しています。
本プロジェクトでは、RCNPおよびiThemba LABSでの陽子散乱を通じた仮想光子交換励起と、ELI-NPにおけるレーザーコンプトン散乱(LCS)による高強度実光子励起を使用して標的核を励起します。これにより、崩壊粒子とガンマ線を検出し、粒子崩壊閾値から巨大双極子共鳴までの励起エネルギー範囲をカバーし、光吸収断面積と崩壊分岐比を測定します。
反対称化分子動力学、平均場モデル、大規模シェルモデル、第一原理計算などの複数の核モデルを用いて、光核反応の系統的な振る舞いを予測します。PANDORAプロジェクトの第一目的は、超高エネルギー宇宙線(UHECR)核が銀河間伝播中にエネルギーと質量を失うメカニズムを解明することです。
ピエール・オージェやテレスコープアレイなどの大型宇宙線エアシャワー観測所によって、10の20乗eVを超えるUHECRが地球上で観測されていますが、その起源、加速機構、組成は未解明のままです。最近の解析では、最高エネルギーのUHECRの平均質量が陽子と鉄の間にあることが示唆されています。UHECR核は、主に宇宙マイクロ波背景放射の光子との光核励起に続いて粒子を放出することでエネルギーと質量を失うと予測されています。したがって、光吸収断面積と崩壊分岐比を理解することは、UHECRのエネルギーと質量の進化を解釈するために不可欠です。
本研究会では、RCNPでの陽子散乱によるPANDORAプロジェクトの最初の実験結果を紹介します。また、LCSによる高輝度高分解能準単色ビームを用いた実験の重要性と、ELI-NP施設の現状についても報告します。
[1] A. Tamii et al., PANDORA White Paper, Euro. Phys. J. A. 59, 208 (2024).