趣旨:
強い力で相互作用するハドロンは、従来、クォークと反クォークからなる中間子、3 個のクォークからなるバリオンといった、高々 3 個のクォークからなる状態と考えられてきた。しかし、最近の実験的進展により、4 個以上のクォークからなるエキゾチックなハドロン --- 4 個のクォークからなる Tcc 状態、5 個のクォークからなる Pc 状態、6 個のクォークからなるダイバリオン d* 状態など --- がここ数年で次々と発見されている。これらエキゾチックハドロンの内部構造を解明することは、クォークの動力学である QCD の非摂動現象を対象とするハドロン物理における喫緊かつ重要な課題の一つである。とくに、非摂動 QCD を直接解くことは極めて難しいので、エキゾチックハドロンの正体を明らかにするには、ハドロン実験とその理論的解析、そして格子 QCD シミュレーションの連携が必須となる。
本研究会では、実験データ・反応計算・構造計算・格子 QCD シミュレーションをシームレスにつなぐことを目指して、実験・理論双方の参加者を募り、ハドロン分光と関連する最新の話題に関して、幅広い視点から検討・議論を行う。
招待講演者 (敬称略):
J.K.Ahn (Korea University)
原田 融 (大阪電気通信大学)
橋本 直 (原研)
板橋 浩介 (KEK)
神谷 有輝 (Universitat Bonn / 理研)
金田 雅司 (東北大学)
Yan Lyu (Peking University / 理研)
七村 拓野 (京都大学)
瀧澤 誠 (昭和薬科大学)
山田 廉仁 (東京大学 / KEK)
吉田 数貴 (原研)
This talk will present the current status of data analysis for the H-dibaryon search in J-PARC E42 and will discuss future physics programs with HypTPC.
Σ-核子相互作用はクォークレベルでのパウリ効果との関係が深いと考えられている。特にΣ+粒子と陽子の間の相互作用は、パウリ準禁止状態であり強い斥力が働くと考えられている状態を直接調べることができるため、バリオン間相互作用におけるクォークの役割を調べる上で重要なチャンネルである。
J-PARC E40実験は高統計のΣ±p散乱データから高精度の散乱微分断面積を測定することで、Σ+p間の強い斥力の検証とΣN相互作用の系統的なデータを得ることを目的とした実験である。データ取得は2018年から2020年にかけて行われ、現在までにΣ-p弾性散乱、Σ-p→Λn非弾性散乱、Σ+p弾性散乱に関する解析結果が発表されている。
本講演では、J-PARC E40実験及びデータ解析に関する概要、および得られた結果を紹介する。
NKS2実験は、GeV領域での実光子ビームを用いたストレンジネスを含むハドロン生成に関する実験を進めてきた。その中から最近の結果としてNΔダイバリオンに関するものを報告する。また、現在計画しているγd→K+Λn 反応での終状態相互作用によるΛn間力、ヘリウム標的を用いた光子生成による軽いΛハイパー核の定命測定実験について紹介したい。
ハイパー核の生成反応の理論計算において、これまでの経緯と最近の状況、および展望について報告する。
nnΛは中性子とΛのみで構成され、確定性が大きなΛn相互作用の研究に適した系である。2018 年、アメリカのJefferson Labで3H(e,e’K+)X反応によるnnΛ探索実験(E12-17-003)が行われた。本研究ではJost関数を用いて Λn終状態相互作用の効果を計算し、本実験で観測されたΛ準自由分布と比較することで、Λnポテンシャルパラメータ(a,r)に対して実験的に制限を与える。本講演では、本研究のモチベーション及び解析結果について紹介する。
原子核のクラスター構造を散乱実験観測量から調べる方法のひとつである、ノックアウト反応について反応理論の観点から紹介する。特に、原子核でのアルファクラスター構造とアルファノックアウト反応断面積との対応関係に着目し、観測量からクラスター構造の情報がいかに引き出されるかについて紹介する。また、ハドロン分野との共通の知見や手法について議論できることを期待する。
In this talk, I will present our calculation of the mass spectrum of the S-wave fully-charmed tetraquark resonant states $cc\bar c\bar c $ in the nonrelativistic quark model, which successfully describes the charmonium spectrum.
The four-body system is solved with the Gaussian expansion method. The complex scaling technique is used to identify the genuine resonances. With the nonrelativistic quark model, our results show the existence of two $cc\bar c\bar c$ resonances in each of the $J^{PC}=$ $0^{++}$, $1^{+-}$ and $2^{++}$ sectors, respectively. In the S-wave sector, no resonance is found at the energy region of the $X(6200)$ and $X(6600)$ states. The lower $0^{++}$ and $2^{++}$ resonances are located around $100$ MeV higher than the $X(6900)$ state observed in experiments but have the decay widths consistent with the experiment. The higher $0^{++}$ and $2^{++}$ resonances are found at around $7.2$ GeV with the widths of $60.6$ MeV and $91.2$ MeV, respectively, and they may be good candidates for the $X(7200)$ state.
cc cbar cbar系の束縛あるいは共鳴状態を用いて、テトラクォーク系の閉込めポテンシャルの仕組みを議論する。
近年、格子QCDシミュレーションによるバリオン間相互作用の計算が行われている。しかし、格子QCDシミュレーションでは、引力や斥力が出現する機構の詳細がわからない。そこで、本研究では、共鳴群法を用いて、クォーク模型によるバリオン間相互作用の計算を行った。特に短距離でのバリオン間相互作用に焦点を絞り、色磁気相互作用とパウリ排他律を考慮してローカルポテンシャルを求め、相互作用の機構の説明を試みた。
The in-medium modification of the spectral function of the η' meson is studied based on the Tρ approximation by employing two models; one is called η'N-scattering model and the other the N(1895)-dominance model. In the η'N-scattering model, one single peak of the in-medium η' mode appears in the spectral function and the peak position shifts to higher energies along with the increase of the nuclear density reflecting the repulsive η'N scattering length. On the other hand, two branches related to the η' mode and N(1895)-hole mode appears in the N(1895)-dominance model. Once the spatial momentum is turned on, the peak positions in the spectral function approach the energies without the nuclear medium effect. Particularly, in the N(1895)-dominance model, the peak strength of the N(1895)-hole mode gets smaller with the finite momentum and the spectral function comes to have one single peak.
本実験は12C(p,dp)反応を用いた準排他的測定を行い、η'中間子原子核の観測を目指すものである。実験は2022年2月にGSIのFRSにおいて、大立体角検出器WASA検出器を用いて実施された。我々はエネルギー2.5 GeV、強度3*10^8/sの陽子ビームを4 g/cm^2の炭素標的に照射し、前方0度方向の重陽子の運動量をFRSで測定すると同時に、η'中間子原子核崩壊後の陽子をWASA検出器を用いて測定した。本公演は実験の実施報告と、現在の解析状況について述べる。
LEPS2/BGOegg実験は2014年から2016年にかけて行われた、メソンの光生成に主眼を置いた実験である。ηやωといった軽い中間子の微分断面積やビームアシンメトリーの測定、η’ mesic核の探索、核媒質中でのη’質量減少などの結果を得られた。現在はマルチメソン生成反応について解析が進められている。これらについてまとめて述べる。
また次期計画として前方にγ線検出器を増設したBGOegg Phase-II実験が進められている。Phase-II実験で目的にしている物理と進捗状況についても述べる。
高エネルギー衝突実験におけるハドロン運動量相関は、閾値近傍におけるハドロン相互作用の解明に大変有用である。特に閾値近傍に多くのエキゾチック状態が見つかっており、かつ相互作用を直接的に調べるのが難しい重いセクターへの応用は大変興味深い。本発表では、主にチャームを含むハドロン対への相関研究の現状と展望について議論する。
2021年に観測されたTccは最低でもcクォークを2つ含む4クォークからなると考えられており、エキゾチックハドロンとして注目を集めている。我々は、Tccの質量を再現できるような模型を有効場の理論を用いて構築し、束縛状態の複合性を計算する。結果として、4クォーク状態を起源とするTccの模型にもかかわらず、複合的な状態が得られる可能性が高いことを示す。また、チャンネル結合や崩壊の影響を取り入れた模型でのTccの複合性についても議論する。
2021年のLHCb実験で発見された$T_{cc}$を$D^{(*)}$と$D^{(*)}$がボゾン交換により緩く束縛した分子状態であると仮定し、ヘビークォーク対称性に基づいた解析を行った。この解析において、$D^{(*)}$と$D^{(*)}$間のボゾン交換モデルに含まれるパラメータを$T_{cc}$の実験値へのフィッティングにより決定した。次に、フィッティングしたパラメータを用い、$\bar{D}^{(*)}\Xi_{cc}^{(*)}$分子状態の束縛状態の有無についてヘビークォーク反ダイクォーク対称性に基づいた解析を行った。
X,Y,Zが観測されたことで、ハドロンのエキゾチック構造が盛んに議論されている。
本発表では、クォークの自由度が結合したハドロンポテンシャルの2チャンネル結合問題を設定し、クォークチャンネルを消去した場合の有効ポテンシャルの性質を調べる。更に、座標依存性やエネルギー依存性が微分展開に与える影響をみる。
得られたポテンシャルをX(3872)に適用し、クォークとハドロン各々からの寄与を抽出することで、内部構造を解析する。
現在、エキゾチックハドロンが注目されておりその解析として Flatte 振幅が用いられている。しかし、Flatte 振幅は光学定理を満たしていないため、本研究では光学定理を満たすより一般的な散乱振幅を有効場の理論から導く。Flatte振幅と有効場の理論から導いた散乱振幅を比較した結果、Flatte振幅から求めた散乱長と有効レンジは有効場の理論の散乱振幅から求めたものとは異なることを示す。
I will show first results on the interaction between the phi-meson and the nucleon (N) based on the (2+1)-flavor lattice QCD simulations with nearly physical quark masses. Using the HAL QCD method, the spacetime correlation of the N-phi system in the spin 3/2 channel is converted into the N-phi scattering phase shift through the interaction potential. The N-phi potential appears to be a combination of a short-range attractive core and a long-range two-pion-exchange (TPE) tail, from which the scattering parameters are obtained. The magnitude of the scattering length is found to have non-trivial dependence of mpi and is sensitive to the existence of the long-range tail from TPE.
Exotic hadrons beyond the conventional quark model attract much attention because of emerging multiquark states in the meson and baryon sectors. The χc1(3872), also known as X(3872), lies close to DDbar+c.c, has a spin-parity 1++, and decays mainly to DDbarπ0. It also decays to two-body final states involving ccbar mesons (J/ψ(1S)ω, ηc(1S)ω). In analogy to this hidden-charm exotic meson, the hidden-strangeness f1(1420) (JPC=1++) meson can be a flavor partner of the χc1(3872) as it exists below KKbar+c.c. In the baryon sector, hidden-charm pentaquark states, Pc(4380) and Pc(4440) (likely JP=3/2-) lie near the ΛcDbar and ΣcDbar, respectively. These states have been observed only in the J/ψp channel. Similarly, their strange flavor partners Ps(2030) and Ps(2080) near ΛK and ΣK mass thresholds could exist and decay mainly to φp. Enhanced φ photoproduction cross sections near 2.1 GeV may indicate a possible observation of those hidden-strangeness pentaquarks. Unveiling the nature of possible Ps states is fascinating. The LEPS2 solenoidal detector, consisting of a large solenoid magnet and a time projection chamber, has recently completed its first phase of the physics run. I will present the Ps search program with the LEPS2 and J-PARC facilities.
最近LHCbがストレンジネスを含むペンタクォーク Pcs(4338) が初めて発見されたと報告した。データは更に Pcs(4254) が存在する可能性も示唆している。我々は unitary coupled-channel model に基づくデータ解析を行い、Pcs(4338), Pcs)(4254) の質量、幅の決定を行った。その内容を報告する。
Xiの励起状態であるXi(1620)、Xi(1690)は長らく理論解析が進まなかったが、2019年のBelle実験によるスペクトラムが得られたことを皮切りに、2021年にALICE実験でKbar Lambda散乱長が測定されるなど、より詳細な実験結果が得られつつある。本研究では実験により測定されたKbar Lambda散乱長を再現するチャンネル結合メソンバリオン散乱振幅をカイラルユニタリー法を用いて構築し、閾値近傍に存在するXi(1620)について議論する。
我々はJ-PARC K1.8BRビームラインでK中間子原子核の研究をおこなっている。既にE15実験で3体系の"K-pp"を発見し、T77実験では4体系の"K-ppn"と考えられる構造の観測に成功した。現在我々は次世代の実験に向けて大型ソレノイド検出器群を新規製作中であり、"K-pp"のスピンパリティ測定(P89)や"K-ppn"の精密測定(E80)を実現することを目指している。本講演ではこれらのプロジェクトの最新状況について報告する。
近年K中間子弾性散乱のデータに関して、カイラル対称性の部分的回復を考慮しての理論計算が発表された。これは、パイ中間子の場合と同様な手法でK中間子弾性散乱のデータを用いてカイラル対称性の部分的回復の実験的検証を行えることを示唆している。しかしながら、原子核と K中間子弾性散乱のデータは特に低運動量の領域で不足している。この領域のデータを得るため、イタリアDAFNEでのK中間子と軽原子核との精密な弾性散乱実験を計画している。本講演では、その計画の目的と実験概要に関して発表する。
本研究では、系統性の観点からストレンジクォークを含む核媒質中のクォーク凝縮について議論する。核媒質中のストレンジクォーク凝縮を核媒質中のカイラル摂動論を用いて線形密度近似のもとで計算すると、カイラル摂動論における低エネルギー定数をパラメータとして含む式として評価される。そこでK+ 中間子-核子散乱を用いて低エネルギー定数を推定し、核媒質中のクォーク凝縮の振る舞いを求めたい。
Belle I & II 実験におけるハドロン物理の最新結果についてレヴューする。Belle実験ではΛ(1670)に関する最近の解析結果を、Belle II実験では、Υ(10753)の崩壊についての解析結果を報告する予定。
閾での非自明な解析的構造によりその近傍に位置する共鳴状態のピークはBreit-Wigner形式で表せないことが知られている。一方、S行列の解析的構造に対応するUniformization変数を導入することで、S行列はMittag-Leffler Expansionと呼ぶ単純な極展開で表現できる。この展開は簡単な形でありながら閾近傍のスペクトルの振る舞いを適切に記述できて、Exotic Hadron等の共鳴状態をmodel-independentに解析する有用な方法として用いることができると考えられる。本講演では2, 3 channelの場合のMittag-Leffler Expansionを具体的に定式化し、様々なハドロンスペクトルへ応用する。
スレショールドカスプについて、以下の内容で講演する。
⓪スレショールドカスプと共鳴、散乱長との関係について
①Belle実験でΛηスレショールド上のカスプを発見した。
②また、KN(I=1)スレショールド上にもカスプ候補を発見した。
③J-PARCやBelleなどでの今後の研究の可能性について。
Compositeness was introduced by Steven Weinberg in 1967 to address that whether Deuteron is a composite particle. This quantity finds its new usage in the study of Exotic hadrons. Lambda(1405) was successfully explained by a Kbar-N scattering state. Sekihara et.al. gave compositeness a more formal framework. However, we found that the methods stated above results in a larger than one compositeness for deuteron. Since compositeness is the proportion of the bound state composed by scattering state, this outcome seems to be unphysical. This outcome was interpreted as insufficient higher order terms by S. Weinberg. We concluded that this higher than 1 compositeness cannot be an outcome of other states or channels. We also found that energy dependence that cannot be attributed to other states or channels will result in a modification to the theory, and cut off the connection from experiment to compositeness. Thus, a higher than 1 compositeness from weak-binding limit calculation indicates that the original assumption may not hold, and model-independent calculation becomes inappropriate. We suggest that an inclusion of three body state will fix this problem.
クォーク2つの束縛状態をダイクォークと呼び,反クォークと同じカラー3¥bar表現をとれる.スピン0のudダイクォークの質量は500MeV程度であると考えられ,これはs¥barクォークの構成子質量と近い値であるため,s¥barクォークとudダイクォーク間の対称性を考えることができる.この対称性をハドロンの波動関数の観点から検証するため,重いハドロンのWeak decayを調べる.特にB¥bar_{s}, ¥Lambda_{b}の崩壊に関する対称性とD_{s}と¥Lambda_{c}の崩壊に関する対称性を調べた.
カイラル有効理論に基づき、Λc(2765)等のローパー的singly heavy baryonのペンタクォーク状態(5クォーク状態)としての可能性が近年議論されている。ここで、3クォーク状態と5クォーク状態を区別する顕著な指標は、U(1)_A軸性電荷である。本研究では、U(1)_A軸性電荷(すなわちアノマリー)と、カイラル対称性に着目し、singly heavy baryonの3クォークと5クォークの質量スペクトロスコピーと崩壊パターンを調べる。そして、カイラルパートナーの存在や、5クォーク状態の更なる実験的観測の可能性に関して議論する。
QCDの低エネルギー領域において,カイラル対称性の自発的破れとそれに対する軸性アノマリーの役割については,クォークの複合場やクォーク自身を自由度とした有効模型の観点から調べられている.本講演では,軸性アノマリーがQCDグルーオン場の描像であるインスタントンと密接に関係することに着目し,QCD真空をインスタントンのアンサンブルとして記述する観点から,カイラル対称性の自発的破れにおける軸性アノマリーの役割を議論する.
We examine the role of the $U(1)_A$ anomaly in a parity doublet model of nucleons which include the chiral variant and invariant masses.
Our model expresses the $U(1)_A$ anomaly by the Kobayashi-Maskawa-'t\,Hooft (KMT) interaction in the mesonic sector.
After examining the roles of the KMT term in vacuum, we discuss its impacts on nuclear equations of state (EOS).
The $U(1)_A$ anomaly increases the masses of the $\eta'$ and $\sigma$ mesons and enhances the chiral symmetry breaking.
Also, the $U(1)_A$ anomaly enlarges the energy difference between chiral symmetric and symmetry broken vacuum;
in turn, the chiral restoration at high density adds
a larger energy density (often referred as a bag constant) to EOSs than in the case without the anomaly, leading to softer EOSs.